デジタル技術による施工計画の精緻化で工事のムリ・ムダをなくす
今井産業株式会社は、島根県を拠点に、土木・建築工事、不動産業、リサイクル事業を展開する総合建設会社です。地域社会への貢献を重視し、豊かな自然資源を活かして、持続可能な未来の実現を目指しています。工事技術や不動産開発、環境保護を通じて、地域と共に成長し続ける企業です。
島根県、日本
元請
道路工事
今井産業株式会社は2018年よりSmart Construction®を導入し、現場での高精度なデータ取得(現場地形の3次元化を行うSmart Construction Edge、従来型建機をICT化するSmart Construction 3D Machine Guidance、ダンプトラックの動態管理を可能にするSmart Construction Fleet)、データ共有、進捗管理(3次元データを可視化するビューアSmart Construction Dashboard)を実現しています。さらに、若手を中心とした「技術推進室」を設立し、これらの新技術の社内展開・サポートを実施しています。
今回の工事現場で今井産業株式会社、これまで取り組んでいたデータ活用による進捗管理を基盤とし、国土交通省のICT施工ステージ Ⅱに対応した施工計画と予実管理で更なる生産性向上にチャレンジしました。施工内容は掘削100,000㎥、盛土90,000㎥、場外搬出10,000㎥の道路改良工事です。土砂運搬が工事エリア内で完結しないため、正確な土量管理を基に、他現場と工程調整をして土配計画を立てる必要がありました。
本現場でICT施工ステージ Ⅱとして実施している項目は10項目になりますが、本記事では、③予実管理のうち(1)掘削・盛土工程における工程進捗管理による実工程に適した資機材等調整、(2)掘削・盛土工程における工程進捗管理による実工程に適した土配管理(複数現場)と、参考項目の Ⅰ.データに基づく工程の立案による施工計画の精緻化の取り組みについてご紹介させて頂きます。
まず、当初計画の妥当性を検証するためにシミュレーションを実施し、工期に余裕を持たせた無理のない改善計画へと見直しを行いました。その結果、1か月分の運搬期間短縮と後工程の余裕(週休2日を実現)を確保できました。
今回の現場では、運搬ルートとして 「場内ルートA」「場内ルートB」「他現場搬出」 の3つを設定しました。他現場搬出については、搬出先の現場の工程を考慮しながら進める計画です。当初の計画では、10tダンプトラック4台を使用し、まず場内ルートAから運搬を開始。並行して他現場への搬出も実施し、盛土エリアのボックスカルバート部の盛土が完了次第、場内ルートBへ切り替えて施工を進める予定でした。しかし、Smart Construction Simulation によるシミュレーションの結果、当初の計画では2月末の運搬完了に対する余裕がなく、仕上げ工程への影響が懸念されました。この問題を解決するため、改善計画として 10tダンプトラックの台数を4台から8台に増やし、運搬可能なボックスカルバート手前側(右側)を先行して盛土を開始。さらに、場内ルートAと並行して場内ルートBでの運搬も進めるように設定し、シミュレーションを実施しました。その結果、運搬作業の期間短縮が確認できたため、改善後の建機編成で施工を進めることにしました。
これまでは、複数の案を比較する際に、並行した運搬によるダンプトラックの増加に伴う稼働率を十分に考慮できていませんでした。しかし、Smart Construction Simulationを活用することで、下記の参考図のように施工前に運搬計画の妥当性を検証できるようになりました。
次は、実際の運搬実績データを活用し、計画の精緻化を行います。シミュレーション結果はあくまで参考値であるため、実績データを取得し、その値をもとにシミュレーションを再設定することで、より正確な施工計画の作成が可能になります。
運搬実績データの取得には Smart Construction Fleet を使用します。専用デバイスを車両に設置するか、アプリをインストールしたスマートフォンを車内に配置することで、自動的に運搬実績データを取得できます。取得したデータをシミュレーション結果と比較し、ギャップがある場合は、実績データを反映した上で再シミュレーションを行います。
例えば、改善計画における場内ルートBのシミュレーション結果では、10tダンプトラック4台で37周と算出されています。一方、取得した運搬実績データでは41周となり、計画と実績の間に4周の差が生じています。Smart Construction Simulation によるシミュレーション結果は、現実に近いほど精度が向上するため、場内ルートBで10tダンプトラック4台が41周となるように、積込時間などの条件を見直し、再シミュレーションを実施します。このように、運搬実績データをシミュレーションへ反映することで計画の精度が向上し、今後の計画変更における信頼性が高まります。
ここまでが、ICT施工ステージⅡの参考項目Ⅰにおける「データに基づく工程の立案による施工計画の精緻化」に該当します。
ステップ3では、発注者、協力会社、そして搬出先の現場監督を交えて、定期的に進捗会議を実施します。会議では、実績の土量進捗とシミュレーション結果を相互に確認しながら、再計画時のダンプトラックの台数を調整します。正確な情報を共有することで、施工における無理や無駄を削減し、より効率的な作業計画の策定が可能になります。
・詳細フロー
8月初旬に実施した進捗会議では、6月と7月の雨天の影響によりダンプトラックの運搬実績が計画を下回ったため、場内ルートAとルートBのダンプトラックの台数をそれぞれ4台から5台に増やし、シミュレーションした結果をもとに工程を回復することで合意しました。精緻化した計画に沿って施工を進めた結果、場内ルートではシミュレーション予測42周回に対し、実績も42周回、また他現場搬出ではシミュレーション予測25周回に対し、実績も25周回となり、計画通りの施工量で順調に進行していました。
8月の進捗会議では、10月から開始する場外搬出を含めたダンプトラックの適正台数について検討を行いました。検討したのは、以下の3つのパターンです。
パターン①では、場内7台・場外搬出5台の計12台でシミュレーションを実施。その結果、必要日数は54日、1台あたりの日運搬量は138㎥、コストは約2,910万円となることが確認されました。
パターン②では、場内6台・場外搬出5台の計11台でシミュレーションを実施。その結果、必要日数は55日、1台あたりの日運搬量は160㎥、コストは約2,585万円となることが確認されました。
パターン③では、場内5台・場外搬出5台の計10台でシミュレーションを実施。その結果、ダンプトラックの台数は最も少なくなるものの、必要日数は最長の62日。しかし、ダンプトラックの待機時間(ボトルネック)が削減され、1台あたりの日運搬量は最も高い169㎥となり、コストは最も低い約2,400万円に抑えられることが確認されました。
この結果、パターン①と比較してパターン③では68台分(人・日)の省人化と510万円の工事費削減が実現できることが明らかとなったため、場内・場外搬出ともに5台ずつ、計10台で運搬する計画を採用しました。