こうした建設業界のイメージを払拭するため、各建設会社ではさまざまな新技術を導入し、業界を盛り上げるためのPR活動に取り組みました。株式会社廣瀬(以下、廣瀬)もその一翼を担い、建設業の新しい働き方を示す取り組みとして、Smart Construction Teleoperationを導入しました。
廣瀬は、遠隔施工をいち早く現場に導入したパイオニアであり、現在も実運用の中でその可能性を追求し続けています。本記事では、Smart Construction Teleoperationを実際に現場で使ってみたからこそ見えてきたメリットや課題、そして働き方の変化について、現場担当者の声をもとに掘り下げていきます。
Q
今回ご導入いただいた商品と構成を教えてください。
広瀬
遠隔操作に対応している油圧ショベルPC200-11を2台とテレオペレーションシステムであるIntelligent Circle型コックピット2台を導入しました。油圧ショベルと遠隔コックピットとの通信には光回線、ドコモや楽天、KDDIの5G/LTE、そしてスターリンク+Wi-Fiを状況に応じて使い分けています。
広瀬
2015年より土工現場のICT施工に携わるようになり、施工する建設機械以外のICT技術やBIM/CIMといったDX技術については、専任社員による対応を進めてきました。その結果、国土交通省の大河津分水路拡幅工事において「インフラDX優秀賞」を受賞することができました。
次のステップとして、i-Construction2.0で掲げられている「遠隔施工技術」に着目したことが今回の遠隔操作に関心を持ったきっかけとなります。
Q
導入に向けて不安に思ったことはなんでしょうか?
広瀬
遠隔操作ができるオペレーターの不在や、遠隔操作に関する運用ルールの未整備、遠隔操作と実機操作での操作感の違い、さらに通信回線の不安定さによる映像の停止や操作遅延などに不安を感じていました。
広瀬
販売店と共に、他県の導入企業に赴き、遠隔操作室と稼働中の建設機械を見学した際、そのコックピットの未来的な外観と、長距離からの遠隔操作が可能な点に大きな感動を覚えました。宇宙船を思わせるそのコックピットは、誰もが魅了されるものであり、結果として遠隔操作に対応するコマツの油圧ショベルとそのコックピットを2セット導入することを決定しました。
広瀬
ダンプトラックへの土砂積み込み作業を3現場で行いました。実績は「国土交通省北陸地方整備局信濃川河川事務所発注 大河津分水路山地部掘削その23工事 」で2,500m3、「新潟県新潟地域振興局発注 新潟港(東港区)西ふ頭用地整備(その2)工事」で 2,150m3、「国土交通省北陸地方整備局信濃川下流河川事務所発注 横場新田地区河道掘削その12外工事」で 6,000m3稼働しました。
Q
従来の建設機械と比べてどのくらいのパフォーマンスだと感じますか?
広瀬
遠隔操作による作業は、実機作業の約6~7割の効率で実施できています。 一方で視界に入る画面が限られているので、実機での仕上げ作業や作業員との混同作業が現状では難しい点が課題です。
Q
遠隔操作ですが、ネットワークのつながりや操作性はどう感じましたか?
広瀬
ネットワーク接続については、光回線を利用できる現場は限られており、加えて光回線を使用していても通信が途絶え、操作ができない場合がありました。また、LTE回線(4G・5G)でも、場所や時間帯によっては通信が不安定になることが多く、オペレーターが不安を感じるケースも見られました。しかし、スターリンクによる衛星通信を導入してからは、これらの2回線と比較して通信がより安定するようになっています。
操作面では、モニター画面が平面であるため遠近感の把握が難しく、細かな作業にやや制約があるものの、全体的な操作遅延はごくわずかで、実用上大きな問題は感じていません。
広瀬
遠隔施工に関する法制度や資格制度がまだ整備段階にある中で、今後のガイドライン策定が期待されます。また、導入・運用コストが比較的高いことから、より高効率な運用や生産性向上の取り組みが求められています。さらに、遠隔操作特有の遠近感の捉えづらさや通信環境の安定化といった技術的課題を解決することで、遠隔施工のさらなる普及が進むと考えられます。
広瀬
遠隔操作に対応したマシンコントロール付き油圧ショベルに、チルトローテータを装着できる製品が登場した際には、ぜひ導入にチャレンジしたいと考えています。重機への移動回数を減らせるため、生産性の向上が期待でき、さらに作業精度を維持することも可能になると見込んでいます。
広瀬
キャビン内で行うあらゆる操作が、すべてコックピット内で完結できるようになることを期待しています。さらに、コックピットと現場の声が双方向に届くようになれば、コミュニケーションがより円滑になり、作業効率の向上にもつながると考えています。
広瀬
遠隔施工の導入により、労働環境・作業環境の大幅な改善が期待できます。雨や雪の日でも長靴が不要となり、ヘルメットを着用しないため髪型の崩れを気にせず作業できるほか、空調の効いた快適な場所で操作できることで、熱中症のリスクも大幅に軽減されます。このような環境が整えば、女性や高齢者の方々にとっても働きやすい職場となり、活躍の幅がさらに広がります。当社では現在5名の女性オペレーターが在籍しており、彼女たちにとってもより快適で継続しやすい就労環境を提供できると考えています。
Q
導入後会社全体にどのような変化がありましたか?
広瀬
遠隔施工の導入により、本社内の快適な作業環境で女性オペレーターが活躍しており、その全員が異業種からの転職者です。募集には多くの女性が応募し、スムーズに採用が決定しました。これは従来の重機オペレーターの募集にはない傾向であり、遠隔施工が魅力ある新しい職業として注目されている証といえます。また、導入後は見学やメディア取材が予想を上回り、導入から3か月で23回と約3日に1回の頻度で見学や取材が実施されました。官公庁や企業、学生など多様な層が訪れ、特に中学校の職場体験では抽選となるほどの人気を集めました。今後、当社を志望する学生の増加も期待されます。
Q
導入に際して他の企業にアドバイスできることはありますか?
広瀬
弊社の新しい技術への取り組みを恐れない社風が、若い世代に受け入れられていると実感しています。 建設業は外部から見ると3Kで敬遠されがちな職業だと思いますが、今の建設業はDXで進化していて働き方改革もできています。 遠隔施工の導入により、当社の働き方や雇用の在り方が大きく変化しつつあります。重機土工の現場を運営されている企業の方は遠隔重機の導入を検討してもよいかと思います。